TOP大野事務所コラム支給額、控除額および差引支給額が0円の給与支給明細書の作成・交付は必要か?

支給額、控除額および差引支給額が0円の給与支給明細書の作成・交付は必要か?

こんにちは。大野事務所の土岐です。

 

先日、「賃金計算期間に1日も出勤していないパート・アルバイトや育児休業中の社員について、支給額および社会保険料等の控除額もなく、差引支給額が0円だった場合には給与支給明細書(以下、明細)を発行していないのですが、問題ないでしょうか?」とご質問をいただきました。

 

明細の作成に関しては労働基準法(以下、労基法)、健康保険法、厚生年金保険法、労働保険料徴収法(以下、徴収法)および所得税法が関係することになりますが、それぞれ確認したところ、次のとおりになります。

 

1. 労基法

まず、労基法においては「明細の発行」に関して直接の規定がありません。なお、労基法施行規則第7条の2に定める「口座振込み」により賃金を支払う場合に関し、通達(H10.9.10基発530号、抜粋は以下参照)において、「賃金支払いに関する計算書を交付すること」とされています。この「計算書」が明細と同義と考えられるわけですが(以下、「計算書」について同じ)、こちらは「支給および控除する金額がある場合のみ」を指すものと読み取れますので、支給額および控除額がいずれもない場合には、交付不要といえます。

 

<通達((H10.9.10基発530号(抜粋))>

3 使用者は、口座振込み等の対象となっている個々の労働者に対し、所定の賃金支払日に、次に掲げる金額等を記載した賃金の支払に関する計算書を交付すること。

(1) 基本給、手当その他賃金の種類ごとにその金額

(2) 源泉徴収税額、労働者が負担すべき社会保険料額等賃金から控除した金額がある場合には、事項ごとにその金額

(3) 口座振込み等を行った金額

 

2. 健康保険法・厚生年金保険法

次に、健康保険法では第167条に、厚生年金保険法では第84条において、「保険料の源泉控除」について規定されています。また、第3項では次のとおりとされており、「保険料を控除したときは」と規定されていることから、保険料を控除しないときは計算書の作成は不要であると読み取れます。

 

<健康保険法第167条第3項、厚生年金保険法第84条第3項>

事業主は、前2項の規定によって保険料を控除したときは、保険料の控除に関する計算書を作成し、その控除額を被保険者に通知しなければならない。

 

3. 徴収法

そして、徴収法では第32条において、「賃金からの控除」について規定されています。また、第1項では次のとおりとされており、こちらも賃金から労働保険料を控除しないときは計算書の作成は不要であると読み取れます。

 

<徴収法第32条第1項>

事業主は、厚生労働省令で定めるところにより、前条第1項又は第2項の規定による被保険者の負担すべき額に相当する額を当該被保険者に支払う賃金から控除することができる。この場合において、事業主は、労働保険料控除に関する計算書を作成し、その控除額を当該被保険者に知らせなければならない。

 

4. 所得税法

最後に、所得税法に関しては我々社労士の専門領域外となりますが、税務署(国税局電話相談センター)に確認したところ、「以下の定めにより、給与の支給がない場合は明細の作成は不要」という回答でした。

 

<所得税法第231条>

居住者に対し国内において給与等、退職手当等又は公的年金等の支払をする者は、財務省令で定めるところにより、その給与等、退職手当等又は公的年金等の金額その他必要な事項を記載した支払明細書を、その支払を受ける者に交付しなければならない。

 

 

以上のことから、労基法、健康保険法、厚生年金保険法、徴収法および所得税法のいずれも、支給額・控除額および差引支給額が0円の場合には明細を作成・交付しなくてもよい、という結論になります。

 

私はこれまで漠然と「明細の作成・交付は不要だろう」と考えていたのが正直なところなのですが、今回のご質問を受け、話を整理する良い機会になりました。

このようなケースであっても明細を作成し、交付していることも多くあるのではないかと思いますが、皆さんの会社ではどのように対応されていますでしょうか。

 

今回のコラムは以上となります。最後までお読みいただきありがとうございました。

 

執筆者:土岐

土岐 紀文

土岐 紀文 特定社会保険労務士

第3事業部 部長

23歳のときに地元千葉の社労士事務所にて社労士業務の基礎を学び、その後大野事務所に入所しまして10数年になります。

現在はアドバイザリー業務を軸に、手続きおよび給与計算業務にも従事しています。お客様のご相談には法令等の解釈を踏まえたうえで、お客様それぞれに合った適切な運用ができるようなアドバイスを常に心がけております。

その他のコラム

過去のニュース

ニュースリリース

2024.08.22 ニュース
【正規職員・契約職員・パート職員募集】リクルート情報
2024.11.20 大野事務所コラム
介護についての法改正動向
2024.11.14 ニュース
『月刊不動産』に寄稿しました【未払い賃金請求権と時効期間】
2024.11.12 これまでの情報配信メール
過重労働解消キャンペーン、2024年12月からの企業型DCおよびiDeCoの変更点について
2024.11.13 大野事務所コラム
PRIDE指標をご存知ですか
2024.11.06 大野事務所コラム
AIは事務所を救うのか?
2024.11.05 ニュース
『workforce Biz』に寄稿しました【年次有給休暇の付与や取得等に関する基本的なルールと留意点(中編)】
2024.10.31 これまでの情報配信メール
賃金のデジタル払い、令和7年3月31日高年齢者雇用確保措置における経過措置期間の終了について
2024.10.30 大野事務所コラム
通勤災害における通勤とは③
2024.10.23 大野事務所コラム
在籍出向者を受け入れる際の労働条件の明示は出向元・出向先のいずれが行うのか?
2024.10.23 ニュース
『月刊不動産』に寄稿しました【職場や外出先への移動時間は労働時間に該当するか】
2024.10.23 これまでの情報配信メール
令和6年年末調整における定額減税に関する事務・簡易な扶養控除等申告書について
2024.10.16 大野事務所コラム
本当に「かぶ」は抜けるのか―「人と人との関係性」から人事労務を考える㊱
2024.10.11 これまでの情報配信メール
令和6年版労働経済の分析(労働経済白書)について
2024.10.09 大野事務所コラム
労働者死傷病報告等の電子申請義務化について
2024.10.04 ニュース
『workforce Biz』に寄稿しました【年次有給休暇の付与や取得等に関する基本的なルールと留意点(前編)】
2024.10.02 これまでの情報配信メール
労働者死傷病報告の報告事項改正及び電子申請義務化について
2024.10.02 大野事務所コラム
女性活躍推進法の改正動向
2024.09.26 ニュース
『月刊不動産』に寄稿しました【社会保険の適用が拡大されます】
2024.09.25 大野事務所コラム
社会保険の同月得喪と2以上勤務を考える
2024.09.18 大野事務所コラム
理想のチーム
2024.09.11 大野事務所コラム
通勤災害における通勤とは②
2024.09.11 これまでの情報配信メール
令和6年度地域別最低賃金額の改定状況について・大規模地震の発生に伴う帰宅困難者等対策のガイドラインについて
2024.09.04 大野事務所コラム
フレックスタイム制適用時における年次有給休暇の時間単位取得と子の看護休暇・介護休暇の時間単位取得
2024.08.28 大野事務所コラム
やっぱり損はしたくない!―「人と人との関係性」から人事労務を考える㉟
2024.08.31 これまでの情報配信メール
「健康保険資格情報のお知らせ及び加入者情報」の送付、マイナンバーカードの健康保険証利用について
2024.08.21 これまでの情報配信メール
雇用保険基本手当日額および高年齢雇用継続給付等の支給限度額変更・令和7年4月1日以降の高年齢雇用継続給付の段階的縮小について
2024.08.21 大野事務所コラム
ライフプラン手当のDC掛金部分を欠勤控除の計算基礎に含めてよいのか?
2024.08.15 ニュース
『月刊不動産』に寄稿しました【減給の制裁における労働基準法の制限】
2024.08.10 これまでの情報配信メール
雇用の分野における障害者の差別禁止・合理的配慮の提供義務に係る相談等実績について等
2024.08.07 大野事務所コラム
1か月単位の変形労働時間制における時間外労働の清算
2024.08.02 ニュース
『workforce Biz』に寄稿しました【管理監督者の適正性】
2024.07.31 大野事務所コラム
健康情報取扱規程の作成は義務⁈②
2024.07.24 大野事務所コラム
ナレッジは共有してこそ価値がある
2024.08.01 これまでの情報配信メール
2024年 企業の「人材確保・退職代行」に関するアンケート調査 カスタマーハラスメント対策企業マニュアルと事例集
2024.07.19 これまでの情報配信メール
仕事と介護の両立支援に向けた経営者向けガイドライン
2024.07.17 大野事務所コラム
通勤災害における通勤とは①
2024.07.16 ニュース
『月刊不動産』に寄稿しました【振替休日と割増賃金】
2024.07.10 大野事務所コラム
これまでの(兼務)出向に関するコラムのご紹介
2024.07.08 ニュース
『workforce Biz』に寄稿しました【歩合給に対しても割増賃金は必要か?】
2024.07.03 大野事務所コラム
CHANGE!!―「人と人との関係性」から人事労務を考える㉞
HOME
事務所の特徴ABOUT US
業務内容BUSINESS
事務所紹介OFFICE
報酬基準PLAN
DOWNLOAD
CONTACT
pagetop