TOP大野事務所コラムフレックスタイム制において月途中の入社等があった際の総労働時間と法定労働時間の考え方は?

フレックスタイム制において月途中の入社等があった際の総労働時間と法定労働時間の考え方は?

こんにちは。大野事務所の土岐です。

 

前回は休業発生時のフレックスタイム制における総労働時間・時間外労働手当の考え方について述べました。今回も実際にご相談いただいた事例から、フレックスタイム制を適用している事業所において月途中に入退社した場合で「暦日数=所定労働日数」となるなど、清算期間における総労働時間(以下、総労働時間)が法定労働時間を上回ってしまうケースについて取り上げます(フレックスタイム制の詳細については次のURLをご参照ください)。
https://www.mhlw.go.jp/content/000476042.pdf

 

では、具体例を挙げます。ある会社において、フレックスタイム制に関する次の労使協定を締結している場合に、本年(2020年)727日に入社したケースで検討します。なお、休日は土・日・祝日とし、1週間の所定労働日数は5日とします。

 

<労使協定>

 第■条(清算期間)

 清算期間は、毎月1日を起算日とし、毎月1日から当月末日までの1ヶ月間とする。

 

 第■条(総労働時間)

 清算期間における総労働時間は、1日の標準労働時間8時間に清算期間中の所定労働日数を乗じて得られた時間数とする。

 

この場合、入社前の71日~731日までを清算期間として総労働時間を算出し、実労働時間との過不足により時間外労働時間および不足時間を算出する、ということになりそうですが、727日の入社である以上、このように考えるのは当然不合理でしょう。727日~731日まで毎日10時間働いたとしても、その合計時間は50時間となり、総労働時間である168時間(= 8時間×21日)には及ばず、時間外労働時間は0時間となってしまうからです。

 

そこで、入社日である727日から731日までを清算期間として総労働時間を算出すると、40時間(= 8時間×5日)となり、実態に即した形となることから、こちらは合理的といえるでしょう。ただ、ここで気を付けなければならないのは、次の式による清算期間における法定労働時間の総枠との関係です。

 

・清算期間における法定労働時間の総枠 = 1週間の法定労働時間(40時間) × 清算期間の暦日数 / 7

 

すなわち、727日~731日を清算期間すると、法定労働時間は28.57時間(= 5÷7×40)となり、総労働時間が法定労働時間を超えてしまうことになってしまいます。では、仮に実労働時間が40時間であった場合、法定労働時間である28.57時間を超える部分について、時間外労働手当の支払いが必要となるのでしょうか。

 

この点、20194月の労基法改正において、完全週休2日制のもとで働く労働者(1週間の所定労働日数が5日の労働者)については、労使協定により、所定労働日数に8時間を乗じた時間数を清算期間における法定労働時間の総枠とすることができることとなりました(労基法第32条の33項)。これにより、時間外労働手当の支払いは不要となります。

 

ただ、「労使協定により」とされているところ、上記の労使協定の定めで足りるのか、足りないとすれば具体的にどのような協定内容とすれば良いのかが気になるところです。しかしながら、通達や上記URLの資料をはじめ、行政が公表しているいくつかの資料を確認したのですが、具体的に協定例が示されているものはありませんでした。

 

そこで、ある労働基準監督署に電話で確認をしてみたところ、回答は、

「この規定方法であれば法の要件を満たすものである、という規定例は現時点では特段なく、公表もしていない。」

というものでした。

 

さらに、

「質問のケースでは清算期間の起算日は毎月1日とのこと、厳密にいえば、起算日がこの日以外となることが客観的に確認できないことから、規定不足と考えられる。労使協定の整備にあたっては、

 ① 清算期間の起算日が1日以外となる場合があることを協定に盛り込むこと

 ② ①の場合に、総労働時間は、原則の清算期間の起算日以外の日から清算期間の末日までの所定労働日数×標準労働時間とすること

を明記しておくことがポイントとなると考える」

と補足がありました。

 

この見解を踏まえ、さらに清算期間の途中で退社等があった場合を想定しますと、次のような労使協定が考えられます。

 

<労使協定>

 第■条(清算期間)

 清算期間は、毎月1日を起算日とし、毎月1日から当月末日までの1ヶ月間とする。ただし、1日以外の入社等があった場合、清算期間の起算日は当該日とし、退社等があった場合、清算期間の末日は当該日とする。

 

少々読みづらくなりますが、このような規定とすることで、考え方が整理できると思います。

 

今回のコラムは以上となります。最後までお読みいただきありがとうございました。

 

執筆者:土岐

土岐 紀文

土岐 紀文 特定社会保険労務士

第3事業部 部長

23歳のときに地元千葉の社労士事務所にて社労士業務の基礎を学び、その後大野事務所に入所しまして10数年になります。

現在はアドバイザリー業務を軸に、手続きおよび給与計算業務にも従事しています。お客様のご相談には法令等の解釈を踏まえたうえで、お客様それぞれに合った適切な運用ができるようなアドバイスを常に心がけております。

その他のコラム

過去のニュース

ニュースリリース

2024.08.22 ニュース
【正規職員・契約職員・パート職員募集】リクルート情報
2024.11.20 大野事務所コラム
介護についての法改正動向
2024.11.14 ニュース
『月刊不動産』に寄稿しました【未払い賃金請求権と時効期間】
2024.11.12 これまでの情報配信メール
過重労働解消キャンペーン、2024年12月からの企業型DCおよびiDeCoの変更点について
2024.11.13 大野事務所コラム
PRIDE指標をご存知ですか
2024.11.06 大野事務所コラム
AIは事務所を救うのか?
2024.11.05 ニュース
『workforce Biz』に寄稿しました【年次有給休暇の付与や取得等に関する基本的なルールと留意点(中編)】
2024.10.31 これまでの情報配信メール
賃金のデジタル払い、令和7年3月31日高年齢者雇用確保措置における経過措置期間の終了について
2024.10.30 大野事務所コラム
通勤災害における通勤とは③
2024.10.23 大野事務所コラム
在籍出向者を受け入れる際の労働条件の明示は出向元・出向先のいずれが行うのか?
2024.10.23 ニュース
『月刊不動産』に寄稿しました【職場や外出先への移動時間は労働時間に該当するか】
2024.10.23 これまでの情報配信メール
令和6年年末調整における定額減税に関する事務・簡易な扶養控除等申告書について
2024.10.16 大野事務所コラム
本当に「かぶ」は抜けるのか―「人と人との関係性」から人事労務を考える㊱
2024.10.11 これまでの情報配信メール
令和6年版労働経済の分析(労働経済白書)について
2024.10.09 大野事務所コラム
労働者死傷病報告等の電子申請義務化について
2024.10.04 ニュース
『workforce Biz』に寄稿しました【年次有給休暇の付与や取得等に関する基本的なルールと留意点(前編)】
2024.10.02 これまでの情報配信メール
労働者死傷病報告の報告事項改正及び電子申請義務化について
2024.10.02 大野事務所コラム
女性活躍推進法の改正動向
2024.09.26 ニュース
『月刊不動産』に寄稿しました【社会保険の適用が拡大されます】
2024.09.25 大野事務所コラム
社会保険の同月得喪と2以上勤務を考える
2024.09.18 大野事務所コラム
理想のチーム
2024.09.11 大野事務所コラム
通勤災害における通勤とは②
2024.09.11 これまでの情報配信メール
令和6年度地域別最低賃金額の改定状況について・大規模地震の発生に伴う帰宅困難者等対策のガイドラインについて
2024.09.04 大野事務所コラム
フレックスタイム制適用時における年次有給休暇の時間単位取得と子の看護休暇・介護休暇の時間単位取得
2024.08.28 大野事務所コラム
やっぱり損はしたくない!―「人と人との関係性」から人事労務を考える㉟
2024.08.31 これまでの情報配信メール
「健康保険資格情報のお知らせ及び加入者情報」の送付、マイナンバーカードの健康保険証利用について
2024.08.21 これまでの情報配信メール
雇用保険基本手当日額および高年齢雇用継続給付等の支給限度額変更・令和7年4月1日以降の高年齢雇用継続給付の段階的縮小について
2024.08.21 大野事務所コラム
ライフプラン手当のDC掛金部分を欠勤控除の計算基礎に含めてよいのか?
2024.08.15 ニュース
『月刊不動産』に寄稿しました【減給の制裁における労働基準法の制限】
2024.08.10 これまでの情報配信メール
雇用の分野における障害者の差別禁止・合理的配慮の提供義務に係る相談等実績について等
2024.08.07 大野事務所コラム
1か月単位の変形労働時間制における時間外労働の清算
2024.08.02 ニュース
『workforce Biz』に寄稿しました【管理監督者の適正性】
2024.07.31 大野事務所コラム
健康情報取扱規程の作成は義務⁈②
2024.07.24 大野事務所コラム
ナレッジは共有してこそ価値がある
2024.08.01 これまでの情報配信メール
2024年 企業の「人材確保・退職代行」に関するアンケート調査 カスタマーハラスメント対策企業マニュアルと事例集
2024.07.19 これまでの情報配信メール
仕事と介護の両立支援に向けた経営者向けガイドライン
2024.07.17 大野事務所コラム
通勤災害における通勤とは①
2024.07.16 ニュース
『月刊不動産』に寄稿しました【振替休日と割増賃金】
2024.07.10 大野事務所コラム
これまでの(兼務)出向に関するコラムのご紹介
2024.07.08 ニュース
『workforce Biz』に寄稿しました【歩合給に対しても割増賃金は必要か?】
2024.07.03 大野事務所コラム
CHANGE!!―「人と人との関係性」から人事労務を考える㉞
HOME
事務所の特徴ABOUT US
業務内容BUSINESS
事務所紹介OFFICE
報酬基準PLAN
DOWNLOAD
CONTACT
pagetop