会話と対話 ― 「人と人との関係性」から人事労務を考える④
こんにちは。大野事務所の今泉です。
唐突ですが、「会話」と「対話」の違いについて考えたことがあるでしょうか。
「対話」という言葉はよく聞きはしますが、実際にはあまり使用しない印象です。ちょっと固い感じがしますね。一方で「会話」というのは日常的に行われている他愛もないことに始まり、様々な場面で行われているもの、というように思われます。
辞書で両者を調べてみると・・・
「会話」:複数の人が互いに話すこと。また、その話。
「対話」:向かい合って話し合うこと。また、その話。
(大辞泉より)
あまり違いは感じられませんね。しかし、英語では会話のことを「conversation」、対話のことを「dialogue」といいますが、全く違った雰囲気の単語となります。
もう少しこの似て非なる二つの言葉の違いに触れますと、「会話」は話すことそれ自体がメインであるというニュアンスで、話したいことを話したり、とりとめのない話をすることも含まれます。
一方、「対話」とは、意味が共有される双方向コミュニケーションである、とされます。理解し合う、異なる価値観をすり合わせる、というニュアンスが強いでしょうか。広い意味で会話には含まれるが、その内容については、お互いの深い理解が要請されるもの、といえそうです。
そして、人と人との関係性を考えるにおいて重要なのは、この「対話」の方ではないかと思います。
ところで、我々は、ありとあらゆることに対して自分なりの意味付けをしています。意識的か無意識的かを問わず、です。その意味付けられた内容は千差万別、十人十色といえるでしょう。例えば、仕事中の同じミスでも、ベテラン社員にとっては「よくある大したことのないミス」が、新入社員にとっては「取り返しのつかない大きなミス」であると感じられたり、上司に叱られてイヤな気分になったときに、「あの上司は嫌いだ」という人もいれば「頑張って見返してやる」と思う人もいるでしょう。
これは人によって意味付けの仕方が異なるからです。そのようなことから、我々は客観的事実の中で生きているのではなく、自らで意味付けした世界に生きている、ともいわれるほどです。
対話は、この意味付けを共有することが目的となります。そして、この意味付けが共有されることによって人と人との良質な関係性に繋がっていくのではないか、と思います。このコラムの第2回で「行き違い」「思い込み」について触れましたが、行き違い、思い込みというズレをあえて明確にし、修正する営みの一つが対話ということもいえるでしょう。
さて、対話は双方向コミュニケーションであると前述しました。ここでは、この双方向コミュニケーションには4つの段階があるという見解を紹介したいと思います。それは次のようなレベルとなります。
レベル1:儀礼的な会話
レベル2:討論
レベル3:内省的な対話
レベル4:生成的な対話
レベル1:「儀礼的な会話」とは丁寧かもしれませんが、見せかけ、建前のやりとりとなります。本音では「その仕事やる意味あるのかな。」と思っていてもそれは隠されたまま、「この場では、こういう発言が求められているだろう」という忖度によって会話が流れている状態です。空気を読んでいる、ということですね。前回のテーマである「聴く」という観点からすると、自分からのものの見方、自分の経験に照らして思い込んで聴いている状態となります。上司から部下への指揮命令などはこれに該当するでしょう。
次にレベル2:「討論」のレベルとは、ディベートという言葉があるように、どちらかに決めなければならない場合のコミュニケーションです。自分の意見・主張を率直に言える、ということにおいて、「儀礼的な会話」よりも関係性が近しいといえるでしょう。「聴く」という観点からすると、どちらが良いかを外側から、もしくは第三者的に聴いている状態となります。ビジネス・シーンにおける会議はこれに該当するといえます。
さらに信頼関係が深まると、レベル3:「内省的な対話」となりますが、「討論」が自分の主張であるのに対し、「内省的な対話」では、相手の立場に立つことができる状態となります。「聴く」という観点からすると、自分自身の話を内省的に聴き、他の人の話を共感的に聴いている、ということなります。「内省的」というのは難しい言葉ですが、現実に起こったことを振り返り、自分自身と向き合い気付くことだとされています。気付く、ということは将来に活かす、というニュアンスがありますので、いたって前向きな状態といえます。この時点に至ると、自分の考えを正しいとは捉えず、また自分の意見に固執せずに相手の意見を尊重し、共感できるようになる、とされます。
そして、最後にレベル4:「生成的な対話」ということとなるわけですが、ことこのレベルに達することができれば、これまでにはなかった新しい意味や方向性を生み出せるようになる、とされます。「聴く」という観点からすると、全体から聴いている状態となります。「全体から」というのは抽象的ですが、自己と他者という垣根を超えて、というイメージです。
レベル1及び2の段階では、まだ対話に行き着いていません。レベル3になって対話といえる状態となり、それを経由してレベル4に到達できるのが理想、ということになります。
上記の見解は、オットー・シャーマー発案、アダム・カヘン公表とされているものですが、組織が望ましい状態になるにはどのような取り組みを行うべきなのか、どのような心掛けが必要なのか、そして、どのような未来を創り出せるのか、といった探求を、(他人事ではなく)自分事として捉え、組織内で協働できるようにすることが目的であるとするならば、このような見解に基づく整理を行うことで、自分たちが今どの位置にいるのか確認することができる、といえるのではないかと考えます。
今回も最後までお読みいただきありがとうございました。
執筆者:今泉
今泉 叔徳 特定社会保険労務士
パートナー社員
群馬県桐生市出身。東京都立大学法学部法律学科卒業。
人事労務関係の課題解決の糸口としてコミュニケーションや対話の充実があるのではないかと考え、これにまつわるテーマでコラムを書いてみようと思い立ちました。日頃の業務とはちょっと異なる分野の内容ですので、ぎこちない表現となってしまっていたりすることはご了承ください。
休日には地元の少年サッカーチームでコーチ(ボランティア)をやっていて、こども達との「コミュニケーション」を通じて、リフレッシュを図っています。
過去のニュース
ニュースリリース
- 2024.08.22 ニュース
- 【正規職員・契約職員・パート職員募集】リクルート情報
- 2024.11.20 大野事務所コラム
- 介護についての法改正動向
- 2024.11.14 ニュース
- 『月刊不動産』に寄稿しました【未払い賃金請求権と時効期間】
- 2024.11.22 これまでの情報配信メール
- データでみる70歳以上の定年・継続雇用制度の導入効果と工夫、大野事務所モデル規程・協定一部改定のお知らせ
- 2024.11.12 これまでの情報配信メール
- 過重労働解消キャンペーン、2024年12月からの企業型DCおよびiDeCoの変更点について
- 2024.11.13 大野事務所コラム
- PRIDE指標をご存知ですか
- 2024.11.06 大野事務所コラム
- AIは事務所を救うのか?
- 2024.11.05 ニュース
- 『workforce Biz』に寄稿しました【年次有給休暇の付与や取得等に関する基本的なルールと留意点(中編)】
- 2024.10.31 これまでの情報配信メール
- 賃金のデジタル払い、令和7年3月31日高年齢者雇用確保措置における経過措置期間の終了について
- 2024.10.30 大野事務所コラム
- 通勤災害における通勤とは③
- 2024.10.23 大野事務所コラム
- 在籍出向者を受け入れる際の労働条件の明示は出向元・出向先のいずれが行うのか?
- 2024.10.23 ニュース
- 『月刊不動産』に寄稿しました【職場や外出先への移動時間は労働時間に該当するか】
- 2024.10.23 これまでの情報配信メール
- 令和6年年末調整における定額減税に関する事務・簡易な扶養控除等申告書について
- 2024.10.16 大野事務所コラム
- 本当に「かぶ」は抜けるのか―「人と人との関係性」から人事労務を考える㊱
- 2024.10.11 これまでの情報配信メール
- 令和6年版労働経済の分析(労働経済白書)について
- 2024.10.09 大野事務所コラム
- 労働者死傷病報告等の電子申請義務化について
- 2024.10.04 ニュース
- 『workforce Biz』に寄稿しました【年次有給休暇の付与や取得等に関する基本的なルールと留意点(前編)】
- 2024.10.02 これまでの情報配信メール
- 労働者死傷病報告の報告事項改正及び電子申請義務化について
- 2024.10.02 大野事務所コラム
- 女性活躍推進法の改正動向
- 2024.09.26 ニュース
- 『月刊不動産』に寄稿しました【社会保険の適用が拡大されます】
- 2024.09.25 大野事務所コラム
- 社会保険の同月得喪と2以上勤務を考える
- 2024.09.18 大野事務所コラム
- 理想のチーム
- 2024.09.11 大野事務所コラム
- 通勤災害における通勤とは②
- 2024.09.11 これまでの情報配信メール
- 令和6年度地域別最低賃金額の改定状況について・大規模地震の発生に伴う帰宅困難者等対策のガイドラインについて
- 2024.09.04 大野事務所コラム
- フレックスタイム制適用時における年次有給休暇の時間単位取得と子の看護休暇・介護休暇の時間単位取得
- 2024.08.28 大野事務所コラム
- やっぱり損はしたくない!―「人と人との関係性」から人事労務を考える㉟
- 2024.08.31 これまでの情報配信メール
- 「健康保険資格情報のお知らせ及び加入者情報」の送付、マイナンバーカードの健康保険証利用について
- 2024.08.21 これまでの情報配信メール
- 雇用保険基本手当日額および高年齢雇用継続給付等の支給限度額変更・令和7年4月1日以降の高年齢雇用継続給付の段階的縮小について
- 2024.08.21 大野事務所コラム
- ライフプラン手当のDC掛金部分を欠勤控除の計算基礎に含めてよいのか?
- 2024.08.15 ニュース
- 『月刊不動産』に寄稿しました【減給の制裁における労働基準法の制限】
- 2024.08.10 これまでの情報配信メール
- 雇用の分野における障害者の差別禁止・合理的配慮の提供義務に係る相談等実績について等
- 2024.08.07 大野事務所コラム
- 1か月単位の変形労働時間制における時間外労働の清算
- 2024.08.02 ニュース
- 『workforce Biz』に寄稿しました【管理監督者の適正性】
- 2024.07.31 大野事務所コラム
- 健康情報取扱規程の作成は義務⁈②
- 2024.07.24 大野事務所コラム
- ナレッジは共有してこそ価値がある
- 2024.08.01 これまでの情報配信メール
- 2024年 企業の「人材確保・退職代行」に関するアンケート調査 カスタマーハラスメント対策企業マニュアルと事例集
- 2024.07.19 これまでの情報配信メール
- 仕事と介護の両立支援に向けた経営者向けガイドライン
- 2024.07.17 大野事務所コラム
- 通勤災害における通勤とは①
- 2024.07.16 ニュース
- 『月刊不動産』に寄稿しました【振替休日と割増賃金】
- 2024.07.10 大野事務所コラム
- これまでの(兼務)出向に関するコラムのご紹介
- 2024.07.08 ニュース
- 『workforce Biz』に寄稿しました【歩合給に対しても割増賃金は必要か?】