TOP大野事務所コラムまず聞く(傾聴の手法) ― 「人と人との関係性」から人事労務を考える③

まず聞く(傾聴の手法) ― 「人と人との関係性」から人事労務を考える③

様々な情報発信がとても頻繁に行われています。

このような世の中では、いかに優れた発信力を有するか、という点が非常に注目されがちだと思います。確かに、溢れる情報量の中で自分のものを選んでもらうためには、目立つ内容、変わった切り口、派手な論調など工夫を凝らして発信することが必要かもしれません。しかしながら、本コラム(これも情報発信です。)で取り扱っている人と人との関係性、さらには人事労務をはじめとするビジネス・シーンにおける日常的なコミュニケーションにおいては、上記のような工夫ではなく誤解を生じさせないような正確な内容が求められる(と考えます。)、と、前回書かせていただきました。

その一方で、情報を受け取る側も、疑問を感じたらその場で確認すべき、ということにさらっと触れましたが、今回はその受け取る側の「聞く」という行為について考えてみたいと思います。

 

3人の人物がお互い話をしていたとします。このとき11人が均等に同じ時間話したとすると、他人の話を聞いている時間は話している時間の2倍となります。4人であれば、3倍ですね。

 

当たり前のことのように思えるかもしれませんが、このことが示しているのは、他人の話を聞いている時間というのは思っているより長い、ということです。もちろん、均等に同じ時間話すということはあり得ません。ただ、例えばAさん、Bさんの2人によるコミュニケーションにおいて、Aさんが8割話している、ということであれば、Bさんは8割聞いているということになります。立場や役割によって話す時間、聞く時間に差が出ることはあるでしょうが、聞くことに割いている時間というのは思っているより多いんだな、と認識いただけるでしょう。

 

さて、この聞く力を高めるスキルとして「傾聴」というものがあるのはご存知だと思います。「傾聴」とは簡単にいってしまえば、相手の話に耳を傾け、熱心に聴くことですが、必要な手法をトレーニングして身につけ、それらを駆使しながら行うスキルの一つです。有名なところでは「ミラーリング」「バックトラッキング(オウム返し)」などの技法がありますが、ここでは「パラフレーズ」といわれているものを紹介します。

 

「パラフレーズ」とは、いわゆる「言い換え」のことです。

相手が話した中に出てきた出来事やフレーズ等を別の言葉で言い換えて話す技法で、意味を変えずに別の表現に言い換えたり、同じ内容のまま主語を変更して作り変えたりすることを意味します。

例えば、

 Aさん;「今年から課長になったよ。」

 Bさん;「おめでとう。昇格したんだね。」

あるいは、

 甲さん;「(わたしは)就職が決まりました。」

 乙さん;「あなたも社会人ですね」

 

というような具合です。   

もともとは弁論や記述、ひいては音楽などでも使用される言葉ですが、最近では語学学習などにも用いられているようです。傾聴という観点からいうと、パラフレーズは聴き手が自分を理解してくれている、共感してくれていると認識できる、という効果をもたらすといわれています。

 

ところで、言い換える、という作業は聞いた内容をきちんと理解していないとできないことです。

 

このことがまさに重要で、単に耳から情報を収集して把握しているだけでなく、いわば「積極的に聞く」「能動的に聞く」ことを行わなければなりません。そして、言い換えて確認することにより、情報発信者の方も伝えたい内容を再確認することができます。その結果として、情報内容の行き違いをなくすこともできるでしょう。コミュニケーション不全の防止になるということですね。また、「積極的に聞く」「能動的に聞く」ことによって、組織における人と人との関係性を円滑にでき、働きやすい職場環境づくりに役立つかもしれません。上司がこれ実行することで、社内の風通しが良くなることに加え、情報発信者に気づきを与える点で個人の能力向上にもつながるかもしれません。このコラムの1でも、ハラスメントの被害者に対する面談の例を上げましたが、このような聞き方ができれば、面談される社員も安心して話すことができたと思います。

 

ちなみに、カウンセリングにおける傾聴は、「アドバイスをしてはいけない」、「説得してはいけない」、などといわれていますが、我々の話でいうと、そもそもアドバイスを求められていますので、これに応えることになります。この点が傾聴とは少々違うのですが、そのような場面であっても、しっかり聞くことができないとミスリードを招きかねません。ですので、課題解決の提案を行う前提として「積極的に聞く」「能動的に聞く」ということはいつも心掛けています。ただ、「聞く」ということは自分が話したい気持ちを抑えて相手の話をまず聞くことを優先させる、ということです。これは実に忍耐のいる作業です。話者が主役であるとすれば、これを譲る度量のようなものが必要でしょう。そうだとすれば、「聞く」という作業は「大人な」対応ができるかどうか、ということなのかもしれません。

 

今回の話題は以上です。

最後までお読みいただきありがとうございました。

 

執筆者:今泉

今泉 叔徳

今泉 叔徳 特定社会保険労務士

パートナー社員

群馬県桐生市出身。東京都立大学法学部法律学科卒業。
人事労務関係の課題解決の糸口としてコミュニケーションや対話の充実があるのではないかと考え、これにまつわるテーマでコラムを書いてみようと思い立ちました。日頃の業務とはちょっと異なる分野の内容ですので、ぎこちない表現となってしまっていたりすることはご了承ください。
休日には地元の少年サッカーチームでコーチ(ボランティア)をやっていて、こども達との「コミュニケーション」を通じて、リフレッシュを図っています。

その他のコラム

過去のニュース

ニュースリリース

2024.08.22 ニュース
【正規職員・契約職員・パート職員募集】リクルート情報
2024.11.20 大野事務所コラム
介護についての法改正動向
2024.11.14 ニュース
『月刊不動産』に寄稿しました【未払い賃金請求権と時効期間】
2024.11.22 これまでの情報配信メール
データでみる70歳以上の定年・継続雇用制度の導入効果と工夫、大野事務所モデル規程・協定一部改定のお知らせ
2024.11.12 これまでの情報配信メール
過重労働解消キャンペーン、2024年12月からの企業型DCおよびiDeCoの変更点について
2024.11.13 大野事務所コラム
PRIDE指標をご存知ですか
2024.11.06 大野事務所コラム
AIは事務所を救うのか?
2024.11.05 ニュース
『workforce Biz』に寄稿しました【年次有給休暇の付与や取得等に関する基本的なルールと留意点(中編)】
2024.10.31 これまでの情報配信メール
賃金のデジタル払い、令和7年3月31日高年齢者雇用確保措置における経過措置期間の終了について
2024.10.30 大野事務所コラム
通勤災害における通勤とは③
2024.10.23 大野事務所コラム
在籍出向者を受け入れる際の労働条件の明示は出向元・出向先のいずれが行うのか?
2024.10.23 ニュース
『月刊不動産』に寄稿しました【職場や外出先への移動時間は労働時間に該当するか】
2024.10.23 これまでの情報配信メール
令和6年年末調整における定額減税に関する事務・簡易な扶養控除等申告書について
2024.10.16 大野事務所コラム
本当に「かぶ」は抜けるのか―「人と人との関係性」から人事労務を考える㊱
2024.10.11 これまでの情報配信メール
令和6年版労働経済の分析(労働経済白書)について
2024.10.09 大野事務所コラム
労働者死傷病報告等の電子申請義務化について
2024.10.04 ニュース
『workforce Biz』に寄稿しました【年次有給休暇の付与や取得等に関する基本的なルールと留意点(前編)】
2024.10.02 これまでの情報配信メール
労働者死傷病報告の報告事項改正及び電子申請義務化について
2024.10.02 大野事務所コラム
女性活躍推進法の改正動向
2024.09.26 ニュース
『月刊不動産』に寄稿しました【社会保険の適用が拡大されます】
2024.09.25 大野事務所コラム
社会保険の同月得喪と2以上勤務を考える
2024.09.18 大野事務所コラム
理想のチーム
2024.09.11 大野事務所コラム
通勤災害における通勤とは②
2024.09.11 これまでの情報配信メール
令和6年度地域別最低賃金額の改定状況について・大規模地震の発生に伴う帰宅困難者等対策のガイドラインについて
2024.09.04 大野事務所コラム
フレックスタイム制適用時における年次有給休暇の時間単位取得と子の看護休暇・介護休暇の時間単位取得
2024.08.28 大野事務所コラム
やっぱり損はしたくない!―「人と人との関係性」から人事労務を考える㉟
2024.08.31 これまでの情報配信メール
「健康保険資格情報のお知らせ及び加入者情報」の送付、マイナンバーカードの健康保険証利用について
2024.08.21 これまでの情報配信メール
雇用保険基本手当日額および高年齢雇用継続給付等の支給限度額変更・令和7年4月1日以降の高年齢雇用継続給付の段階的縮小について
2024.08.21 大野事務所コラム
ライフプラン手当のDC掛金部分を欠勤控除の計算基礎に含めてよいのか?
2024.08.15 ニュース
『月刊不動産』に寄稿しました【減給の制裁における労働基準法の制限】
2024.08.10 これまでの情報配信メール
雇用の分野における障害者の差別禁止・合理的配慮の提供義務に係る相談等実績について等
2024.08.07 大野事務所コラム
1か月単位の変形労働時間制における時間外労働の清算
2024.08.02 ニュース
『workforce Biz』に寄稿しました【管理監督者の適正性】
2024.07.31 大野事務所コラム
健康情報取扱規程の作成は義務⁈②
2024.07.24 大野事務所コラム
ナレッジは共有してこそ価値がある
2024.08.01 これまでの情報配信メール
2024年 企業の「人材確保・退職代行」に関するアンケート調査 カスタマーハラスメント対策企業マニュアルと事例集
2024.07.19 これまでの情報配信メール
仕事と介護の両立支援に向けた経営者向けガイドライン
2024.07.17 大野事務所コラム
通勤災害における通勤とは①
2024.07.16 ニュース
『月刊不動産』に寄稿しました【振替休日と割増賃金】
2024.07.10 大野事務所コラム
これまでの(兼務)出向に関するコラムのご紹介
2024.07.08 ニュース
『workforce Biz』に寄稿しました【歩合給に対しても割増賃金は必要か?】
HOME
事務所の特徴ABOUT US
業務内容BUSINESS
事務所紹介OFFICE
報酬基準PLAN
DOWNLOAD
CONTACT
pagetop